ジョブズの奇行・官の倫理

最近のニュースで、スティーブ・ジョブズがプライベートジェットでお忍びで来日し、帰国時に手荷物の手裏剣(!)の持ち込み検査を受け、「自分のジェット機でテロを起こすバカがどこにいるんだ!」「こんな国、二度と来るか」と激怒した、というモノがありました。

これはSPA!が記事にして、ブルームバーグが(世界中に?!)配信して広まったようなんですが、しかし、まったくもってジョブズの怒りも当然な話で、たしかに自分のプライベートジェットでテロを起こす人は、普通に考えればいないでしょう。

ひょっとして記事にした側は、ジョブズの奇行・わがままぶり?を書きたかったのかもしれないけど、これだけ読んだら、日本の検査官は世界中の笑いもの、てな印象。また役人が杓子定規に検査を求めたりするから、こんな恥ずかしい事になるのよ、と思った人も多かったかも。

ところが、こんなニュースを発見。

これを受けアップル本社からは早速、ウォール・ストリート・ジャーナルのAllThingsDを通じて以下の公式見解が出ました。

「スティーブがこの夏、京都で休暇を過ごすため日本を訪問したのは本当だが、空港で起こったと伝えられるような事件は全くのフィクション。スティーブは楽しい時を過ごした、また近く日本を訪れたい、と言っている」

- SPA!報道に対するAppleの公式見解


なんだかんだで、日本のマーケットはデカイので、まあ無難にフォローを入れてみました、って感じですが。

この記事によれば、ブルムバーグが関西国際空港に対して、事実かどうか取材してみたそうで。さすが天下のブルームバーグ。信用が商売だけに裏取りも当然。で、確かに7月末プライベートジェットを利用する乗客1名が「手裏剣」所持で止められた事実はあった、と確認が取れたと。ただし乗客名はプライベートな情報なので明かされなかった。

しかも「その乗客は問題の刃物(複数)を投げ捨てていった」そうなので、これはやはり伝えられた通りの事があったんだろうな、という気がします。

ところで、見逃せない情報もありました。なんでも「関空はプライベートジェット乗客専用のセキュリティ検問所が別に用意されていない」のだそうで、これじゃあゲートの検査官は検査を求めざるを得ないだろうなと。

ここを、「ここではそういうルールなのだから、プライベートジェットだろうとナンだろうと、他の乗客と同じ検査を受けるべき」、と考えるか、「状況の違いを無視して、形式的で意味のない画一的な対応を強いるのはどうか」、と考えるか。この違いは、物事の進め方、もしくは管理というものの上での大きなポイントではないかと思うです。

前者な立場の人なら、ルールに従わないジョブズのわがままぶりが印象付けられるのかもだけど、後者な立場の人も決して少なくないのではなかろうか。その人たちにとっては、ナンセンスな日本人という印象のニュースなんだろうなあ。

ところで。私は役人が融通が利かない事は「基本的に」良い事だと思ってます。決められたポリシーに従って粛々と業務を行う。行政官としては、それが公平で正しい対応だと考えます。たまに「ちっ」と思う事があったとしても(笑)。

逆に恣意的に融通を利かせる役人による行政が、社会的にどうなのか、という事を考えれば分かりやすいかと。ルールやポリシーの不明確な運用は人々の不満の元です。

つまり、問題があるとすれば、個々の役人の対応よりも、ルールやポリシーなどのシクミの方にあると。当然な話ですけどね。

で、日本の役人は、どうも官尊なセンスでルールを作るの得意だったりします。昔のようにお上が下々を善導する、とまではいかずとも、官の理念や都合優先なシクミであることが多い。ような気がする。さっきの話だと、前者の「他の乗客と同じ検査を受けるべき」って、どうもそんな官の倫理感が匂う。

なので、今回の出来事については、検査官の硬直的な(?)対応を非難するのはお門違いと言えましょう。それより、行政責任者がちゃんとしたシクミ、今回の場合ならプライベートジェット乗客への個別対応プロシージャーや設備等、を用意してあげないと、担当者がかわいそうなばかりか、他国からの失笑まで受けてしまうんじゃないの?というのが結論。

もう一つポイントだと思ったのは、ジョブズが「手裏剣」を買って帰ろうとしたこと。ファンタスティック(笑)。