オケをピアノで

先日、音楽の友社ホール@神楽坂にて行われた、宮川彬良のアキラ塾、にサイクンと共に行って参りました。内容的にはBSの「どれみふぁワンダーランド」のようなもの。観たことがない人は、早速チェックして観てみましょうね。面白いですよ。

1時間目の内容は、「ウェストサイド・ストーリーの深読み」。もうそのまんま「どれみふぁ−」ですが、作品全体を支配する増4度の対立音についての指摘や、何曲かのモチーフの分析など、ただただ感心するばかり。今まで観た「深読み」シリーズのなかでも、最も素晴らしいモノのひとつではないかと。

ところで、宮川氏は子供のころからウェストサイド・ストーリーが大好きだったとのことですが、話を伺いつつ、いつ頃このような分析を試みた、というかやろうと思ったのかしら、とぼんやり思いました。

そしたらば、氏が好きになる以前から、父、泰と書いてひろしがウェストサイド・ストーリーのボーカルスコアをすでに所有していたそうです。さすが音楽一家。そうか、そんな小さな頃からスコアがあったのか。

ボーカルスコアとは、オペラなどの個別の歌のパートと伴奏のピアノによるスコアです。オペラの練習の時などに使います。

このボーカルスコアの話をするなかで、「本来はオーケストラなんだけど、ピアノにしちゃうといまひとつ」的な発言がありました。正確にはなんと言ったんだっけ?ちゃんと覚えてないんだけど。すぐメモしとけばよかった。

とにかく、ピアノ伴奏にしちゃうと艶消しだ、的なニュアンス。まあ言いたいことは分かりますが、実は私は、本物のオーケストラより、ボーカルスコアなどのピアノに編曲し直したものの方が好きな事が多いんです。

当初、声楽専攻だった事もあり、学生時代はいくつかのオペラ(ゼミレベルから学園主催オペラまで)を体験しましたが、もちろん練習にはボーカルスコアを使います。つまりピアノ伴奏で練習する。

その中で気が付いたんだけど、ピアノならではの音のアタックの強さや明瞭な縦の響きが、オケで聴くよりもはっきりと伝わってくる。和声進行やリズミックさがビビッドに伝わってきて、これは自分的には明らかにオケで聴くより好みであると気づいてしまった。

なかでも、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」をやった時は、楽曲のあまりのカッコ良さにシビレまくり。これはプッチーニが生前に完成させた最後のオペラですが、20世紀初頭の新しい技法が取り入れられた、刺激的なサウンド

これ、オケだけではこのとがった感じは伝わらなかったなあ。まあ、私の耳の悪さのせいかもだけどさ。

でも、実は私はオーケストラのルーズな部分がコドモの頃から苦手で。演奏にもよるけど、やっぱり日頃ポップミュージックのタイトさに馴染んでると、オーケストラの縦の揃わなさとか和音のぼんやりした感覚って、ちょっと苦手。

弦カルテットぐらいコンパクトになれば気にならないけど、やっぱりあれだけの大人数でやってるから、多少のルーズさが付きまとうのはやむなしか。

それと、そもそも私は音色の妙へのこだわりが少ないほうで。オーケストラの色彩感というのは音楽の大きな味わいのひとつだけど、それより、構成的にどんな音が鳴っているか、の方への興味が強い。

例えば、バッハのフーガの技法とか、楽器指定はないけど、音の動きだけが指定されているようなあり方。いくつかの編曲版があるけど、結局どんな音色でもいいよ、音の動きだけちゃんとやってくれれば、って感覚に近い。

上の話にもつながるけど、ピアノ編曲されてると、音色的にもそれを包括的に捉えやすい。

そんな訳で、本来はオーケストラの代替品に過ぎない、ボーカルスコアのピアノ編曲ですが、大抵の場合、私はそちらの方が聴いてて気持ちいいと思うの。というお話でした。