西遊記の音楽

CXの今シーズンドラマで「西遊記」が始まりましたが、なかなか楽しませていただいております。私たちの世代は、やはり70年代の堺正章ヴァージョン(?)への思い入れが大きいのですが、ドラマの質としては基本的に同じノリで、その2006年ヴァージョンなのだなと感じているところです。

西遊記さて、70年代のヴァージョンは、ゴダイゴが全面的にサウンドトラックを製作し、これが実に素晴らしいものでした。当時のゴダイゴは一部のロック・ファン(懐)からは注目を浴びていたものの、これがきっかけで一躍メジャーな存在になったのでした。

中国〜中央アジアをイメージさせる音楽というと、NHKの「シルクロード」の音楽がありますが、今から思えば、このゴダイゴサウンドトラックは喜多郎の「シルクロード」よりも先なんですよね。旋律や和声などのイメージというか、音楽的な語法が似通っている部分も多いと思いますが、やはり如何に西遊記のサントラが労作だったかということではないでしょうか。

ところで、昨年は放送80周年ということで、日中共同制作で「新シルクロード」が放送されていましたが、この音楽を担当したのがあのヨー・ヨー・マでした。正確にはヨー・ヨー・マが音楽監督で、アジア各地の民族楽器のエキスパートから編成されたシルクロード・アンサンブルとのコラボレーションを行っています。本シリーズが始まる前に、このサウンドトラック作成のドキュメンタリーが放送されたのですが、これがもう実に素晴らしい音楽なのでした。

エンチャントメント~魅惑の響き~NHKスペシャル「新シルクロード」オリジナル・サウンドトラック昔のシルクロードも良かったけれど、25年も経つと世間でも民族音楽への理解も深まり、おのずとより高いクオリティーを求めざるを得ないのだな、と思えるほど懐かしくも新しい音楽ではなかったかと思います。

特に評価したいと思うのは、旧シルクロードとはまったく音楽的なコンセプトが違うという点です。おそらく旧シルクロード的なイメージというのは、音色や楽想など、今でも多くの人にとって有効だと思うのです*1。しかしそのような既存の語法に頼らずに、新しい表現を目指して、しかもそれが成功しているとは素晴らしい。ちなみに、かなり気に入ったので、サントラのCDは即買いしました(笑)。

話は戻って、さて新しい西遊記なんですが、シルクロードにおける上記のような「進化」を体験したばかりだったので、音楽に関してはちょっとがっかり、という感想です。テーマ曲(?)も含めて、もう昔の西遊記の焼き直し、のレベルではないかと。確かに、サウンドプロダクション的には今の音になっていますが。

しかし音楽担当の武部聡志が、「素」でそんな使えないことをするとは考えにくいので、とすると、やはりドラマのノリも含めて70年代版西遊記の再現をめざすという制作ポリシーがあり、そのために「ワザと」やってる気配も濃厚です。単に、アジアの音楽なんてこんなもん、という発想のせいであれば、それはちょっと残念な話だけど(笑)。

*1:余談ではありますが、しかし、それはおそらく多分に「外部からの作られたイメージ」であるように思われます。欧米から見たニッポン、のような。新シルクロードでもそのような部分もあるでしょうが、まず楽器とプレーヤーが本物の民族音楽のモノであること、作品を成立させるに当たって、それらのプレーヤーのアイディアを取り込みながら作られたという点で、よりリアリティを感じさせる作品になっていると思います。