インドのこと その3 「リシケシ!これがビートルズ Vol.2」

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ところで最初に書いた通り、ただ身体をインドに置いてみる、ぐらいの意識で出かけたため観光者気分はあまりなく、当然カメラというものも持参せず、実際それでも特に問題はありませんでしたが、マハリシのアーシュラムに足を踏み入れた途端、これは記録に残さねば!と、カメラも持たずに来たことをハゲシク後悔することになりました。が、事ここに至って如何ともしがたく、気を取り直してメモ帳にスケッチを取る事にしました*1



これが山に登る前にある正門です。三本のドーム状の屋根や柱は、丸い石(貝?)のようなものがはめ込まれて出来ています。そのゴツゴツ感は、大仏様の頭を思い出していただけるとちょうど良いかもしれません。正面の門は鉄格子なので、閉まっていても向こう側が見えます。門の向こうにはすぐ山が迫っていますが、この門の辺りも木陰になるぐらい周りには木が茂っています。

それにしても、ちょっと変わったデザインだとは思いませんか?それまで見てきたヒンドゥーの建物とはちょっと趣が違います。シルエットだけみればイスラムの影響があるような気もしますが、石をはめ込んだゴツゴツ感がちょっと異様な雰囲気をかもし出しております。


これはアーシュラム敷地内の見取り図です。オリジナルの三つのスケッチをまとめて、描き直しました。結果、実際の記憶と比べて、どうもスケッチの下に行くほど現実よりも縮尺が詰まっている気がしますが、まあ全体的にはこんな感じです(笑)。ガンガー沿いの山の中腹を切り開いたスペースなので、まわりは山林に囲まれています。

正面の門を入ると、左前方に切通しのようになっている坂道があり、そこを上がってアーシュラムの入り口にたどり着くようになっています。この坂はかなり急傾斜で、なぜか途中に三つずつならんだベンチが2箇所ありました。坂を上りきるまでの高さは、10mちょっとぐらい。

入り口を入ると、まず正面にある郵便ポストに意表を衝かれます。ここまで郵便局の人が郵便物の集配に来ていたのか。それだけ、このアーシュラムには大勢の人が滞在していたということでしょうか。事実、正面を入るとかなり広い敷地が広がっています。左手にのびた道沿いにはコテージが並んでいて、これはどうも住居用であるようでした。また敷地内のあちこちに瞑想用と思われる小さなドームがあり、こちらも一階が居住スペースになっているようです。

敷地は奥の方にむかって、ゆったりとした上り勾配になっており、一番奥の裏門を出てしばらくすると勾配が急になり、そのまま山を上るような地形です。

まずは左手のコテージをのぞいてみました。どれも基本的には同じ設計と思われましたが、中には多少サイズの違うものもあったかもしれません。外観は白の板張りだったと思います。それぞれのコテージには番号が付いていましたが、ビートルズが滞在したのはどこだったのか確認しておけばよかったーと、これまた後悔。記入漏れですが、コテージ9番と10番の間にある○はリンガ*2です。なにやら異教風の正門に怖気づきましたが、やっぱりここはヒンドゥー教がベースになっているようです。

そのまま道沿いにゆっくり坂を上がってゆくと、コテージの並びの先に、どうも教室として使われていたらしいコの字型の建物が幾つか並んでいました。その正面の凹んだ部分に、緩やかにカーブした壁のようなオブジェがあり、最初の建物のソレを見たとたん思わず釘付けになりました。下のイラストは、そのオブジェの意匠と、建物&オブジェのイメージ図。建物はスケッチしてないけど、こんな感じ。


JAI GURU DEV。実際の歌詞とはちょっと違いますが、まさしくAcross The Universeで歌われているフレーズではありませんか。ジョン・レノンがどうやってそのフレーズを知ったのか。マハリシの講義の時に出てきたのか?それまで特に考えてみたことはありませんでしたが、その時とっさに想像したのは、このオブジェをみたジョンが、これはどういう意味?とマハリシもしくは他の行者あたりに尋ねた、というようなストーリーでした。

ちなみに、DEVもしくはDEVAは、一般的には神の意ですが、ここでいうGURU DEVとは、マハリシの師、スワミ・ブラーマナンダ・サラスワティという行者のことだそうです。おそらくジョンは一般的な意味に置換えて歌っているのだと思いますが。いずれにしても、Across The Universeという曲は、やはりこの場所と深く結びついているのだ*3

そのオブジェのあたりからガンガーの方に向かってゆくと、突当たりにリッチな作りのコテージがあります。ここは一階の半分ほどが屋根付きのバルコニーになっていて、室内にはエアコンがあります。明らかにここだけ設備が良いので、これはマハリシ専用のコテージではないでしょうか。コテージナンバーは42とありました。2階もあって、コテージの上は屋上、さらには地下室もありました。しかも!なんとここだけ警備の人が居ました。2人。一応立ち入り禁止エリアなので注意されるかと思ったら、別になんともありませんでした。

ところでこの建物を最初見た瞬間(となりのドームも)、これは見たことがある!と思いました。てっきりアンソロジー・ビデオか写真集Beatles In Rishikeshかと思っていたのですが、帰国後確認したら両方ともハズレでした。何で見たんだろう?その「何か」で見たのと同じアングルでスケッチもしたのですが、ラフ過ぎてなんだかよくわからない、かつそれをみて描き直す事もほぼ不能ありさまなので、残念ながらお見せすることができません。


バルコニーの裏手はすぐ崖のような急斜面になっているので、辺りの風景を一望できます。アンソロジー・ビデオには、ここから撮影したと思われる映像もありました。このあたりはガンガーから2,30mぐらいの高さですが、川の流れの激しいところらしく、水の音がゴウゴウと聞こえてきます。

ビートルズがインドに行った時の写真として、よく紹介される、マハリシを囲んだ集合写真がありますね。アンソロジー・ビデオにもその写真の撮影時の様子が収められていました。その撮影を行ったのが、このバルコニー付きコテージの脇です。

さて、アーシュラムの中にはたくさんの瞑想用と思われるドームがありました。他の建物とは違い、大抵は林の中や草がうっそうと茂っているような場所に密集していました。


正門と同じように、このドームも石を全面に当てはめられて作られています。このドームがうっそうとした環境の中で密集しているのを見るのは、ちょっと気味が悪いものでありましたよ。

ドームは直径が4メートルほどで、ほとんどが2階建てです。1階は居住スペース、2階は瞑想用といった雰囲気です。完全に一人でひきこもって修行しろということなんでしょうか。2階などは2人も座ればいっぱいになってしまうぐらいの広さしかありません。昔は大勢の修行者(?)がいて活気もあったのかもしれませんが、もはや不気味さの方が先にたちます。私はどうもあの大仏様の頭のような意匠になじめないらしい。

そういえば、ミア・ファーローの妹プルーデンスがひきこもってしまったというのが、ひょっとしてコレだったんだろうか?よくテントとか言われているけれど。ビートルズのみなさんはたぶんコテージの方に宿泊してたんだと思うけれど。

しかしそう考えてみると、実際にビートルズが訪れた時はどんな様子だったんだろう、という気もしてきます。私が見てきたのは70年代以降に新しく作られた建物だったという事もあり得るなあ。城マニア的に言えば、大阪城で太閤さんの栄華の後を見てきたつもりで、でも今の大阪城は豊臣時代の城を埋め立てて徳川家が一から作ったものだった、とか。

なにか資料があればいいんだけど、と思いつつ、何度か言及した写真集Beatles In Rishikeshという素晴らしい資料を持っているではないかと、いまさらながら気づき(笑)。この本は純粋な写真集ではなく、テキストもかなり含まれていたのです。まだ読んでなかっただけで。

結局、調査不足という事もあったけれど、ビートルズに関して「ここでこんなことがあった」とはっきり特定できたのは、集合写真の場所とアングルぐらいでしたが、それでも敷地内を詳細に見て歩いたのは、やはりビートルズ的な興味があればこそだったと言えましょう。こんなところであの曲を作ったんだ、という雰囲気を体感できたのは、やはりファンとしてうれしく思うところです。


もはやムダに長くなってしまいましたが、最後にひとつだけ。ハルドワール、リシケシにたどりつくまで、インドではどちらかというと商売人たちとの殺伐としたやりとりが絶えませんでした。まあ観光地なんてそんなモノだともいえますが、さすがにガンガー上流の聖地ではこのような不愉快は皆無でした。ああ、ここに来るための旅だったんだなーとしみじみ感じ入ったものです。次はヨガ目的で長期滞在したいところです。アーシュラム跡も再訪したい。もちろんカメラ持参で(笑)。

*1:実際にはスケッチのほとんどは2日目に訪れた時に描きました。1日目はコーフンして、とにかくあちこちを隅々まで見ることで終わってしまったのです。

*2:男性器をかたどったオブジェ。シヴァ神を表す

*3:マイク・ラヴビーチボーイズの曲でJAI GURU DEVを使ってました。彼はその後もずっとマハリシに師事していたようですが、今でも続いているのだろうか?