インドのこと その3 「リシケシ!これがビートルズ Vol.1」

おかしなもので、インドに行った時には、目的というものを特に意識していませんでした。人に尋ねられたら、せいぜい本場のインド料理三昧にあけくれるとか答える、そんなぐらいで。たぶんインドの中に身体を置いてみること自体が目的だったという気もします。

スケジュールも決めずにデリーに旅立ってしまったので、その後の行き先はすべてインドに着いてから決めたのですが、ここに行かねば始まらないでしょう、というべきポイントはありました。ひとつは、バラナシ。ガンジス川(以下ガンガー)に浸からずしてどうするよ?と。もうひとつは、リシケシ。

リシケシ?それはどこ?一体何があるの?インドを訪れた事があってもそう思う人は少なくないのではないでしょうか。一口で言ってしまえば、それはヨガのふるさとと呼ばれるヒンドゥーの聖地で、多くの寺院やヨガ道場があります。場所はデリーから北上してヒマラヤの麓に入ったあたり。ヨガ目的の欧米人観光客が多いのですが、元々はインドのサドゥー*1が修行に来るような場所です。

このリシケシにあるマハリシ・マヘシ・ヨギのアーシュラムに、ビートルズが瞑想の講義を受けるために滞在したのが1968年の2月から4月。この間、ビートルズはリシケシの自然の中で曲作りを続け、それらの多くは次のアルバム"THE BEATLES"に収録されたのでした。この通称ホワイト・アルバムは、初めて聴いて以来30年もの間、ずっと私が一番好きなビートルズのアルバムでもあります*2。是非それらの曲が生まれた場所に行ってみたい、それがシリケシ行きの理由でした。つまり私にとっては、いくつかあるビートルズの聖地の一つにカウントされていたわけです。

The Beatles (The White Album)

The Beatles (The White Album)

さてそのリシケシ行きですが、日程としてはインド滞在の最後に訪れるということになり、その近くのハルドワールで1日、そしてリシケシで2日過ごすというプランでした。ハルドワールは「神の門」という意味*3ですが、この町はヒマラヤ山麓から流れてきたガンガーが平地に出てくるような位置にあり、なるほどココが聖地の入り口なのね、という実感が湧きます。さらに上流のリシケシへ向かうまさに玄関口のような町です。NYCで偶然見かけて入手した"Beatles In Rishikesh"というインド滞在時の写真集に、このハルドワールの風景写真を見つけました。ひょっとしたらビートルズも立ち寄ったのかも知れません。

そのハルドワールからバスでガンガーに沿った山間を1時間ほど走るとリシケシです。リシケシの市街地はガンガーの西側にありますが、アーシュラムが集まった地域はさらにガンガーを北上した地域にあり、マハリシのアーシュラムはさらに川を渡った対岸にあります。市街地の辺りは平らですが、基本的にはガンガーの両側には山が迫っているというような地形。


リシケシに到着したのは朝だったので、まずは地元の人たちに混ざってガンガーで沐浴を済ませてから、市街地からリクシャで北に移動し、ガンガーを渡るための大きな吊橋、ラム・ジュラにたどり着きました。ああ、この風景はアンソロジーのビデオでみたよ、この橋も映っていたなあ、ついにこんなとこまで来ちゃったよ、などとしみじみ思いつつ、脳内ではビデオのリシケシのシーンで流れていた"Across The Universe"が鳴りまくりです。
たまたまビートルズが滞在した季節と同じだったので、周りの風景も写真集やビデオで見ることが出来るものとかなり似ているのでした。乾季でガンガーの水が少ないため、両岸とも河原が広がっていて、マハリシがジョンを乗せてあげようといったヘリコプターの離着陸も、この河原を使ったんだな。

橋を渡るとガンガーに沿って南側に寺院やアーシュラムが並んでいて、マハリシのアーシュラムはその南端の突き当たりあたりにあるらしいのでした。そこで、寺院の裏手にあるホテルに部屋を取って、さっそく行ってみることにしました。

当時の「地球の歩き方」には「マハリシのアーシュラムはインド人専用になっている」とあったので、当初は、まず頼み込んで見学させてもらう、でもおそらく中には入れないだろうから、とりあえず周りをうろついてみようという魂胆でした。

しかし、これがなかなか見つけられずに苦労しました。ところどころで地元の人に尋ねてみたのですが、結局出かけてからたどり着くまでに2時間以上かかったのではないでしょうか(笑)*4。結局スタートポイント近くまで戻って、何度か前を通り過ぎた、小さな廃寺だと思っていた建物の前にガイドと客といった風情の4人のインド人がいたので、そこで確認すると、なんとそこがマハリシのアーシュラムでした。

あまりに荒れ果てていたのと、他のアーシュラム等とデザインの趣が違い過ぎた上、規模が小さすぎたので完全にノーマークでした。やられた。しかし良く見れば、そこは門だけで、アーシュラムはそこから階段を上がった山の上にあるようでした。なるほど、最初に道を訊ねたサドゥーに説明してもらった通りではないか。

ああ、結局ホテルから10分足らずの場所だったのに、えらく時間をかけてしまったよ。でも気候も環境も良かったし、まあビートルズゆかりの地で気分良くちょっとした散策をしたと思えばいいか、リヴァプールでも同じような経験をしたしと納得。

それになかなか興味深かったのは、山ではいたるところで野生の猿の群れを見かけたことでした。ニホンザルとほぼ同じような種類じゃないかしら。なるほど、これだけウジャウジャ猿が居れば、猿の曲の一つも作ってみたくなるよなあと、これまた納得したのでした。

さて、なるほどアーシュラムはすでに閉鎖されているようで、それはその朽ち果て振りを見れば明らかでしたが、先のインド人グループも門の中に入って行ったので、一応門には「NO ENTRY」の文字もあったけれど、これは勝手に中を見て廻ることが出来るのだなと判断、私も早速門をくぐりました。

Vol.2へ続く...

*1:サドゥーはヒンドゥーの修行者。"Sexy Sadie"のSadieと同じです

*2:ちなみに、ホワイト・アルバムを聴くまでは、A Hard Day's Nightが一番好きなアルバムでした

*3:ビシュヌ派の人たちはハリドワールと呼びますです。これは「神」といってもシヴァ神がハル、ビシュヌ神がハリなので、どちら派かで呼び方が違うらしいと。

*4:その間の、地元のみなさんとのやりとりはこんな感じ。ガンガーのほとりにいたサドゥー:「もっと戻ったところの山の中にあり、入口には門がある」...少し山に入ったところで出会ったカップル:「もっと戻った方の山奥?(英語があまり話せないらしくゼスチャーで)」...道を変えて山に登ったところにあったそれらしい建物の前で営業していたチャイ屋のにいちゃん:「これは別の寺で、マハリシのアーシュラムは閉鎖されたよ」...引返したところにたむろってたタクシーの運ちゃん:「この道を真っ直ぐ進んで、しばらくしたら小径を右に入ったところにある」...それらしい小径がないのでまっすぐ山を登り続けたところですれ違った人たち:「この先1km弱ぐらい行ったところだ」...さらに先に進んだところで給水していたトラック運ちゃん:「もっとずっと山の下の方だよ」...この先1kmぐらいと教えてくれた人たちの情報はまったくデタラメだったよ。これだけで1時間近くのロス