ジョンの魂

ジョンの魂 ?ミレニアム・エディション?「ジョンの魂」は、ジョン・レノンの実質的ソロ活動の最初にあたる作品です。当時ジョンが受けていたセラピーでの、プライマル・スクリーム療法によって心に潜む諸問題の顕在化と解決を試みたというアルバムの成立背景があり、内容は両親との関係やビートルズの解散など様々な問題に対する心情の吐露ともいうべき、極めて内省的なものになっています。まあ一口で言えば「重い」アルバムです。

しかし、そんな事とはかかわりなく、ビートルズをあらかた聴きまくった末にソロの作品にも手を出し始めた私は、まずジョンのこのアルバムに手を出し、狂った様に聴きまくっていたクチです。当時私は15才で、まだ音楽も良く知らない少年でしたが、圧倒的な迫力とカッコよさにすっかり参ってしまいました。確かに「重い」作品でしたが、しかしながら、何でもどんどん吸収してしまうお年頃のせいか(笑)、特に抵抗なくこの作品を体験する事が出来たと思っています。まあ、まだジョンもバリバリの現役で活動してましたし。

当時の私にとっては、何よりもまず"Mother"でした。なんども歌詞を読んで暗唱しました(この曲なら中学生でも大丈夫)。低音の効いた、音の塊を投げ付けられている様なピアノ、感情を爆発させたボーカルをより際立たせるかの様に、対象的に淡々と曲を進めるドラムとベース。このアルバム全体がそうですが、「間」を積極的に、しかもうまく生かしていると云う印象が強いです。リフレインのジョンのシャウト!痛い!しかし最後のフェイド・アウト間際のピアノのグリッサンドは「魂の救済」なのか?

それからずっと大人になってからは"God"にシビレています。なにより「神とは我々の痛みを測る概念である」と宣言する最初の歌詞はスゴイですね。かつて自分の価値観を委ねていたと思われる諸々の「神」を「もう信じない」と連呼する、ある種センセーショナルな捉え方をされる事の多い後半より、こちらの方がジョンの言いたい事だったんだなあと云う気がします。聴きはじめの中学生の頃には"God"と云うタイトルがあんまりピンとこなかったのだけど、まあコドモですから(笑)。

名作の誉れ高い「ジョンの魂」ですが、実はちょっと気になる事もあります。それは当時のジョンの状態と結び付けて語られる事が多すぎる、と云う事なのですが、これは、そのせいで評価を高めている部分も有るので、一概に悪い事は言えないのかもしれませんね。内容が内容だけに、70年代からそう見られがちな作品だったと思いますが、80年のジョンの死以降は、また別の局面が出てきたかと。でも、その様な見方に気を取られて、この作品が持つ価値を見誤る事があっては、いかにも残念な事です。

作品はあくまでもアーティストとは独立した物として接するのが良かろう、と云うのが私の考えです。また、その様な距離を保てるのも優れた作品の条件ではないでしょうか。その点でも、「ジョンの魂」は充分に水準を満たしていると思うのですが、どうでしょう。

確かに、当時のジョンを取り巻く状況(苦悩、と言うべきか)がこの作品を創る原動力とはなったのでしょう。でもそれと作品の価値とは別物です。このアルバムを、私たちはジョン・レノン私小説としてしか接することは出来ないのでしょうか?そんなプライヴェートな情報なしにはこの作品を評価する事が出来ないのでしょうか?そんなことないですよね。

もちろん「事実」がもっている「力」を否定するものではありませんが、フィクションにも「力」は有ると思います。むしろ、そこがアーティストの腕の見せ所なんじゃありませんか。

ジョン・レノンと云う極上の素材を味わうのに、変なソースや味の素は無くてもいいですよね。