幻のLong Tall Sally

ビートルズのライブ映像というのはいくつかありますが、私が一番気に入っているのは、アメリカでの最初のライブ、ワシントンDCコロシアムでの映像です。選曲も良いし、演奏もやる気満々でイキイキしてます。本人達もアメリカでの最初のコンサートと云うことでコーフンしていたと思いますが、そのノリの良さがストレートに伝わって来るようです。

このライブはアリーナ形式の会場で客席の真ん中にステージがあり、2〜3曲ごとに機材を移動して向きを変えてゆくという、今では考えられないようなスタイルで進行します。といって、1964年の事なのでモニターなどもなく、メンバーやスタッフがアンプやマイクスタンドを持ってステージ上を移動するわけです。ドラムだけはそうもゆかないので、丸い回転台の上にセットして、向きを変える際に台を回すという(笑)。

そのせいもあって、リンゴはドラムを台ごとゆさゆさ揺らして、髪振り乱しの大熱演です。リンゴの場合椅子が高いんでそれだけで雰囲気ありますが、そのせいでアクションも良く見えますし。各曲の終わりでドラムを叩きまくって終わるのも大好きですが、このスタイルは後に失われて行くのが残念です。

残念といえば、この時のライブはステージ向かって左側のマイクの音が小さくて、ボーカルバランスが悪いシーンがたびたび現れると欠点があります。これがなければ、とっくに公式の商品として出回っていたのではないかしら。そのぐらい良い内容のライブです。

いま出回っている映像は、映画用にモノクロ撮影されて当時アメリカ各地で上映されたフィルムが元になっています。80年代にはアメリカで商品化されていましたが、それは"I Want To Hold Your Hand"で終わってしまいます。70年代にフィルム・コンサート等で観た物は、その後に"Twist And Shout"がありましたが、途中で終わってしまうんじゃなかったかなあ?それで収録されなかったのかしら。

しかし当日のセットリストでは、さらにそのあと"Long Tall Sally"をやったらしいのですが、これはもう、一度もお目にかかったことがありませんでした。当時の資料でも、フィルムは"Twist And Shout"終わっている事になっていました。

と思っていたら、偶然にも衝撃の出会いをする時がやってきました。それは1996年、アンソロジーと新曲のリリースで、久々にビートルズが世間の話題になっていた頃。銀座のソニービルビートルズのフィルムが上映されるというので、ビートルズ仲間のなおちなべちやんの3人で観にいった時の事。

80年代にアップルが作成した、レコードの音に当時の映像を重ねたような退屈な映像が続いて、こりゃあわざわざ来なくても良かったかと思い始めた頃、いきなりライブ映像が出てきて、"Long Tall Sally"がはじまったのでした。

一瞬なんだか分からなかったのは、前述の通りかなり変わったステージ風景なので、ソレがワシントンDCだっ!という事は冷静に考えれば分かるのですが、ひとつには存在が知られていなかったこと、もうひとつには私たちが知っている古ぼけたフィルムの画像とは格段にレベル違いの鮮やかな映像だったということがあったかと。むしろそれらの印象が強すぎて、どんな演奏だったのかほとんど覚えてませんよ、私は(笑)。

ザ・ビートルズ・アンソロジー DVD BOX 通常盤観終わったあとの3人は、当然のようにコーフンして語り合ったのですが、最後にちゃんとアップルのクレジットも出たし、それはアンソロジー・プロジェクトで発掘されて、時間的にTVの倍以上のボリュームがあるといわれる、近々発売されるビデオに当然収録されるのだろう、という予測で一致したものです。

ところが。これが全然違いました。なぜ??なぜなんだあーーー?という疑問は収まらず。この期に及んで出し惜しみですかあ?あるならちゃんと入れてくださいよ、もう。というわけで、ワシントンDCの"Long Tall Sally"は依然幻のままです。

ついでにもうひとつ。あのキレイな画像は何だ?アンソロジーに収録された上記ライブでは、"She Loves You"は今まで通りの古ぼけた映像で(その代わりに「カラーの」プライベートフィルムが挿入されてましたが)、"I Saw Her Standing There"は"Long Tall Sally"と同じような超高画質でした。銀座で観た時は、てっきりマスター・フィルムが良い状態で発掘されたのかと思いましたが、一部しか残っていなかったのか?*1

The Beatles In Washington D.C. Feb. 11th, 1964 / (Dol) [DVD] [Import]ちなみに去年だかにアメリカで(アップルではない会社から)ワシントンDCのライブがDVD化されましたが、画質は以前のモノと同等、どころか収録曲が減ってます。どういう事情があるのか(笑)。

*1:それとも、あれはデジタル処理によるものなのだろうか?まあどっちにしてもアンソロジーのすべての映像はブラッシュアップのためデジタル処理されてると思うけど、ワシントンDCの映像は以前と比べてあまりに画像がキレイになっているので、疑問が残ります。