日本も個人寄付で

文化的な基盤や税制等、いろんな理由があるのでしょうが、以前から、欧米などと比べて、日本では寄付という行為があまり一般的でないという指摘がありました。

ここでは1ドル=115円(2004年)換算で、米国における寄付金の総額は日本の36倍という比較結果が出ています(しかも、米国単年に対して日本3年分ですよ)。特に個人の寄付金額については、100倍以上の金額差があります。

これについて、日頃からぼんやり考えていることが2つあります。ひとつは、日本でも政党・政治家への収入が個人寄付中心になってゆかないものかということ、もうひとつは、社会での成功者による個人寄付を促進するような社会にならないかということ。

このうち、政治向きの話はまた後日という事にして、今日は2つめの方について簡単に書いてみようかと。それというのも、ソフトバンク孫社長が100億円の個人寄付を行ったというニュースがあったので(笑)。


極端な格差社会で、稼げるやつがとことん金を取ると思われている米国ビジネス界ですが、非常識なまでに?高額収入を得ている社会的成功者は、実は一方で、例外なく個人寄付による多額の社会還元を行っています。

これは、ビジネスに限らず、成功者に一種のノブリス・オブリージュのような感覚があるのだと説明されることが多いようです。社会もそれを求めていると同時に、それを支える税制があることも重要でしょう。

少なくとも、多額の金が税金として徴収されて訳の分からない使い方をされるなら、明示的な用途のために寄付した方がマシ、というセンスも少なからずあるらしい。

「持てる者は持たざるものに分け与えよ」的なキリスト教センスが背景にあるから、このような形での社会還元が起こりやすいのだ。なんて事も言われてますが、そうなると、いまの日本であまり寄付行為が盛んでないのも分かるような気がする。


そんな中、今回の震災への義援金として、著名人による大金の個人寄付がニュースになりました。イチロー然り、久米宏然り。ビジネス界ではファーストリテイリングの柳井社長が10億出してびっくりと思ってたら、今度はソフトバンク孫社長の100億円ですよ。

企業として寄付をするというのもエライですが、個人寄付というのは、また別の意味を持っています。それは個人として社会にどう向かい合うかという価値観の発露であるから。これらの個人による大金寄付は、明快な社会へのコミットメントではないでしょうか。

その意味で、これは日本におけるノブリス・オブリージュの復活ではなかろうかと、私などはある種の感動をもって、これらのニュースに接しております。

そして重要な点として、これらが新しい世代のリーダー達によって行われている事も見逃せません。もちろん人によるのだろうけど、もっと上の世代、現在の日本でトップにいる立場の人たちから、このような動きがあったかしら。

戦前の日本には、このようなノブレス・オブリージュのようなものが存在していたと聞きます。それが戦後社会では失われたものの、また新しい動きが出てきたということになるのではないか。

私には、これが、新しい社会への変化の予兆のようにも感じられるのです。今回の震災で、おそらく社会のいろんなあり方が変化を余儀なくされると考えていたけれど、こんな重要な部分での変化が図らずも顕在化したのだ、という気持ちです。


ちょっとヘンな話ですが、米国がキリスト教的センスで寄付に向かうのであれば、それと比べて、現在の日本において何が寄付のモチベーションに成り得るかと考えた場合、ルサンチマンの緩和、と云うことになるのではないか?と感じています。

日本には清貧を以って善しとするセンスが根強くあり、そのねじれた裏返しのように社会的成功者に対する嫉妬感情もまた強い、と感じています。

ましてや、この10年ほどは新自由主義的な価値観*1が力を持ち、高収入は努力の結果、稼げないのは努力が足りないからと、自己責任の名の下に、持てる者がより多く取ることを当然化してきた訳です。(特に経済的)成功者への反感の強さは、左翼がブイブイ言わしてた時代以上かも?!

そのような土壌の中で、成功者は社会還元を行うものだとのカルチャーが成立するようになれば、社会的なネガティブ感情の解消にもなり、一方ではもうちょっと前向きな意義付けとして、社会的な尊敬を受ける存在の復活にもなるのではないかと。

(だって、今の日本にいますか?社会を動かす経営者でも政治家でも。そう云う、みなが尊敬するような、子供が目標に出来るような、立派な存在。スポーツのすごい人、ぐらいじゃないですか?)


まあ話が長くなりましたが、そんなこんなで、日本でも成功者がバンバン個人寄付をするようなあり方に代わってくると、いろんな面で社会が変わってくるんじゃないか、という話です。

もちろん成功者だけじゃなくても。日本の100倍以上の個人寄付金額の米国では、その8割が高額所得者によるもの*2だそうですが、残り2割だけでも、日本のソレの20倍。

税制上の優遇という点は大きいので、ここは大いに改良してもらって、日本でももっと個人寄付を促進するようになればいいかも。というか、個人的には今の政治の税金分配に納得できないので、出したい事に金が出せる分マシ。

金は天下の回り物、ということわざもあるぐらいだし、決して損にはならないんじゃないかな。

*1:新自由主義的な価値観:いやあ、こう呼ぶのは、個人的には誤解なんじゃないかという気が、最近してきているのですが、話が通じやすいのであえて

*2:米国の個人寄付金額の8割は高額所得者による:ネットで見かけた情報だけど、出典が不明