どこがどう似ているか(あるいは上海万博PR曲のこと)

先日から何かと話題になっております、上海万博PR曲の盗作疑惑。Youtubeで見聞きできる範囲では、かなり似てそうですが、それぞれ似ている部分を継ぎはぎしたムービーばかり。岡本真夜の「そのままの君でいて」のPVはあるんだけど、16日の時点で、もう「2010等〓来」の方がどうにも見つからない。両方の曲を書き出して比べてみたかったんだけど。

昨日になって、万博実行委から岡本真夜に対して「楽曲使用伺い」があったという報道があり、そのせいか、やっと今日になってムービーがひっかるようになりました(http://www.youtube.com/watch?v=8_Lgn8u-euk&feature=related)。で、さっそく譜面に書き出して比べてみましたよ。あ、ドミナントはお約束で通常の7th表記となってますよ。テンション類は適当に読み替えてください。

比較しやすいように、両方ともCのキーで表示してあります。上段が岡本真夜の「そのままの君でいて」−表題は「岡本真夜」、原曲のキーはD。下段が「2010等〓来」−表題は「上海2010」、こちらは原曲キーもCです。

全部表示すると長いので、まずはAメロディーの部分から。

一目見てパッと分かるのは、両方とも構成がほぼ同じということです。ホントは「上海2010」の方は8小節目の後Aメロを繰り返す前に1小節余分にサイズがありますが、縦を揃えるためここでは割愛。それ以外は同じサイズ。コード進行も一緒。Aメロ4小節目だけに違いが見られます(「上海2010」では1回目と2回目でも違う)。

そしてメロディー、歌いまわしやシンコペーションの扱いの違いは見られるものの、楽譜が理解できなくても、上下でほとんど同じ動きになっていることがわかると思います。14小節目の跳躍先の音がGかFかというところを除けば、ほぼ同じメロディーです。


次にBメロディー。一番最後、コーラス前に1小節オカズが追加されているので、ミドルエイトならぬミドルナインですね。ここでも構成がまったく一緒です。

コード進行で気づくのは、

  1. 1−2小節目のIV - V on IV という特徴的な進行が同じであることと、
  2. 3小節目のon IIIの扱いを、「岡本真夜」ではキーであるI on IIIとして、「上海2010」ではそのまま3度のIIImとして、違う雰囲気となっている、

というところでしょうか。上記2の影響で、その部分はメロディーの使用音が若干違っていますが、それ以外はやはり、ほぼ同じメロディーです。


さて、コーラスのCメロディー。「上海2010」ではこの直前にひゅるひゅるっと転調して、原曲キーはEbとなっています。リフレインのあと、さらにFへと転調。「岡本真夜」の原曲キーはDのまま。

いままでと同じようなズレ感でコードもメロディーもほぼ同じなんですが、ここで今までにない大きな音楽的な違いが出現!3-4小節(赤枠)の部分、コード進行は同じなんですが、メロディーの扱いが対照的です。「岡本真夜」の、同じメロディーを繰り返しつつコードが動いてゆく、ちょっとハードな感覚に対して、「上海2010」ではコードの流れに合わせて、同じ音形ではあるものの、メロディーも一緒に流れて滑らかな感覚です(メロディの大まかな音の流れが、1小節目から、ミ−レ−ド−シ−ラと順次進行している)。

ここ、重要です。ここまでの比較から、「上海2010」が「岡本真夜」を参考にして(穏便表現)作られたことは明白である、と言い切った上で推測しますが、「上海2010」の作者氏は、「岡本真夜」のこの部分のメロディーが「なにか不自然」に感じたのではないでしょうか。いままでほぼコード進行もメロディーも、愚直と言って良いほど「岡本真夜」をなぞってきたのに、彼の感覚の中で釈然としない何かがそこで生まれた結果、魂の炸裂となりこのような音列の選択を成さしめたのではないかと。

なんか妙なところに「上海2010」作者氏のドラマ(笑)をみてしまいましたが、結論から言えば、私は「岡本真夜」の流れの方が上等だと感じます。コードが流れてゆく上での同じメロディーの繰り返しは心地良いテンションがあるし、同じメロディーの4回目では軽やかに高音へ跳躍(赤枠)してみせるアクセントの置き方など、セオリーを踏まえつつ手馴れた作りとなっているかと。それに比べると「上海2010」の方は素直だけど陳腐と言えなくもない。いや、こちらの方が良い、という人ももちろんあるでしょうが。


こう楽譜にしてみると、音符の高さや場所で(あとコード進行で)、視覚的に似ていることが見て取れませんか?。というか、転調や小節の追加などはあるけれど、基本的にほぼ全曲通して同じ曲。こんな大イベントの曲なのにバレないと思ったのか、小日本が騒いでも黙殺できると思ったのか。いずれにしても大した事ではないと思ったのか、「上海2010」作者氏は度胸あるなあ。

かわいそうなのは万博実行委員会で、盗作を見抜けなかったのかと追及の声があるそうだけど、確実に見抜くなんて「全世界的音楽データベース人間」でもいない限り(いない)できるわけないでしょ(笑)。

ただ、楽譜の書き出し比較なんて事をしてみて思い出すのは、ジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」事件。詳しい裁判ドキュメントは読んだことないけれど、音楽的に「同じ・似ている」というのはどういうことなのか、というような哲学論争みたいなやりとりに発展したという話を聞いて、音などと云う目に見えないモノを対象に、しかも同じ対象から何を聴き取るかは個人の音楽体験やスキルによって違う、などという泥沼のような世界であることの難儀さにも思い至るわけです。でも、やっぱり「He's So Fine」、似てるよね(笑)。ワザとじゃないと思うけど。

ところで。
「万博実行委員会からの楽曲使用伺い&岡本真夜快諾」のニュースで、マスコミ的には、結果的に中国側が盗作である事を認めたという扱いになっているようです。でも、どうかな。中国はそんなストレートな認め方をするかな。気になるのは、「上海2010」作者氏が、当局から妙なお咎めを受けないかと。もちろん著作権法違反、などではなく「とっても中国的な理由」で厳罰に処されちゃうんじゃないかと心配。

朝のワイドショーなんかでは、今後この曲を岡本真夜の曲としてどうやって扱うのか、いろいろと難しい問題がある、とか盛んに心配してたけど、先方が盗作完全拒否しているならともかく、双方合意なら「パープルレインタウン」や「Whatever」のように、オリジナル(ということになっている)の作者名をクレジットに追加、という事になるんじゃないのかな。