アカペラ

日本国でも昨今はアカペラという演奏形態が世間的に認知されてまいりました。山下達郎が80年に最初のOn The Street Cornerを出した頃の「アカペラってなに?」という雰囲気はまったくなくなったように思われます。

もっともアカペラというのは音楽の内容までは指示しません。あくまでも歌だけで(A Cappella)というひとつのスタイルにすぎません。私は合唱団上がりなので、最初にそこでこの言葉を覚えました。しかし今一般的にアカペラといった場合、単なる演奏の形式を超えて特定の音楽のタイプが思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。

ところで最近ワタシ的一大トピックといえば、トッド・ラングレン来日&初ライブ体験だったわけで、9月後半から今に至るまで寝てもさめてもトッド漬けの日々を送っております。

初ライブと言っても聴き始めはもっと昔で、85年のアカペラというアルバムを聴いたのがきっかけでした。
A Cappella

それは雑誌の新譜レビューのコーナーに載っていました。
アカペラ --- というタイトルにしては学ランを着て東南アジアのお面をかぶったジャケットが明らかにミスマッチ。

レビューの内容は、さすが鬼才トッド・ラングレン、一筋縄では行かない、というようなものでしたが、そういえばちょっと変わったアーティストとして定評のあるトッドをまだ聴いた事がなかったのに気づいたのと、異様なジャケとヘンなアカペラらしいなどさまざまな興味が炸裂して、すぐにレコード購入へと走ったのでした。

これがすごかった。いきなりケチャが出てきたり(それであのお面か)サンプリングされてまるで楽器のように活躍する声。たしかにアカペラだけど、通常のソレとはかなり趣の違うサウンドに一発でトリコになったのでした。まあ普通にアカペラな曲もあったし、声だけでなく楽器も少し使っていた曲もありましたけど。

発売は85年ですが録音は83年に行われていて、レコード会社と出す出さないで一年ほどもめた後に別会社からのリリースとなった、という事を最近知りました。しかしなるほど、サンプリングの多用やエイジャン・テイストな雰囲気など、83年当時の最新のオイシイところでありますね。

今その話を知っても、さてそれまでさんざんトッドの妙なアルバムを出してきたベアズヴィルレコードが発売を拒否するほど突飛な内容だったかな?という気がします。同じような話が当時日本でもありましたが*1、レコード会社って意外とコンサバなんですかね?!

とにかくこれがトッド・ラングレンとの出会いで、あまりのすごさにノックアウトされてしまったのでした。

あれが「アカペラ」でなかったら印象も全く変わっていたはずでしょう。その後I Saw The Lightなどを聴いた時は、をを!こんなフツーのいい曲(笑)も作れるんだ!とコーフンしました。

(しかし残念ながら当時トッドのレコードはほとんど廃盤で、他にはSomething/Anything?ぐらいしか聴けるものがありませんでした。)

このアルバムが出た時、日本には来ませんでしたが、米国ではアカペラ・ツアーを敢行していたそうで、その時の音源が去年になって発売されました。こちらは総勢11人のボーカリストを引き連れてのライブ。人力でトッドのアカペラ曲をガンガンやってます。
ア・カペラ・ツアー
アルバム以外の定番曲なども、弾き語りだったりコーラス多めの特別アレンジになっていてかなり楽しめます。実は今一番ハードリピート中の1枚(2枚組だけど)となっております。

*1:ムーンライダーズの「マニア・マニエラ」。1981年にレコーディングされたが、斬新過ぎてレコード会社(徳間ジャパン)が発売を拒否した。翌82年に当時ほとんど普及していなかったCDで発売。84年にカセットブックとして発売、そしてついに86年にポニーキャニオンより普通のアルバムとして発売される。その時点でもまだ全然古くなかった。