ジムに手を出すな

The Anthology ~The Way We Used To Be
さて、ジム・クロウチですよ。私の場合、特定のアーティストをしゃぶり尽くすように味わうというケースは、実はそう多くないです。さらにそんな中で、ビートルズと同じぐらい全キャリアを通じて味わいつくしたと言えるのが、ジム・クロウチです。

ジム・クロウチ。1943年に米国フィラデルフィアで生まれたシンガー・ソングライター。一般的にはカントリー系のアコースティックなサウンドと分類されているようです。確かにカントリータッチの曲もありますが、私はむしろR&BとかR&R、もしくはポップ色の強い曲をアコースティックでやっているという感覚が強いです。

60年代から音楽活動を始めて、メジャーレーベルではキャピトルから妻とのデュエットアルバムも出しますが、手応えなし。その後70年代に入り、大学で一緒に音楽をやっていたトミー・ウェストとその相棒のテリー・キャッシュマンのレーベルから彼等のプロデュースにより「ジムに手を出すな」でソロ・デビュー。ここでそこそこのヒットが生まれて、やっと音楽活動が軌道に乗りました。

そしてセカンド・アルバムからは「リロイブラウンは悪い奴」がついに全米1位のヒットになりました。しかしそのたった2ヵ月後の1973年9月20日、サード・アルバムのレコーディングも終了し、全国の大学をツアーで回りながら、いよいよこれからという時に、ツアー移動中の飛行機事故*1で他界。まだ30歳でした。ジムの作品にはかかせない、ライブではいつも2人で、バックでリードギターを弾いていた名手、モーリー・ミュライゼン*2も一緒でした。結局、残したソロ作品は3枚のオリジナル・アルバムと、死後に編纂されたアンソロジーに含まれた未発表曲だけとなってしまいました。

私がジム・クロウチを知ったのは1977年の10月7日のことでした。なんで日付まで覚えているかというと、高校に入って最初の文化祭の初日だったからです。私の通っていた都立高校では、初日にホールを借りて*3芸能祭というステージイベントの開催を以って文化祭のスタートとする慣習でした。これが私の公式(笑)ライブデビューの日でもあったのですが、この時ジム・クロウチのコピーをやる先輩のバンドを見て、一発で心つかまれました。最初はコピーからだったという(笑)。

しかし勇んでレコードを買いに行ってみると、国内盤はすでに廃盤。輸入盤もなかなか見つからずで苦労しました。それでもなんとか輸入盤で音源をかき集めて*4、あとはひたすらコピーしまくりました。高校時代に弾き語りで一番多く演奏したのは、まちがいなくジム・クロウチです。

ジム・クロウチはゴツイ見た目のイメージからは意表を衝かれるような美声の持ち主です。もっともかなりクセのある声でもありますが、一度聴くと忘れないような特徴的な声です。歌詞はリリカルな甘いものと、ユーモアあふれる物語調のモノが2大主流だと思います。曲調が似たものが多いので、あそこで死ななくてもこれ以上の名曲が生まれたかどうかは疑問、という感想を読んだことがありますが、正直、もう少し長生きしていたら、確実にもっとメジャーな存在になっていたと思います。

それは、ひとつには遺作となったサード・アルバムではそれまでと違うサウンドアプローチが試みられて変化の兆しがあったこと(また、それまで全部オリジナルだったのに、違うソングライターの曲を取り上げたりもした)、また素朴でワンパターンかもしれないけど、心を打つ歌詞とメロディーを作り出すことが出来る人だったと思うので*5。仮に9割がマンネリでも1割の特別な曲があれば、十分ではないかと。まあ曲が如何に良いといっても、コピーなどして歌うとき、この個性的な声で歌うことが出来ないために本来の味わいが出ないという事もありで、やはりここはオリジナルで本人の声に接して欲しいと思います。

今日は9月20日。ジム・クロウチの32回目の命日です。毎年恒例で、この日は彼の全ソロ作品を聴きまくります。まあ全部通して聴いても2時間くらいなので。私の場合、命日にその人の作品を聴きまくるという習慣は、ジム・クロウチによって出来上がりました。その頃はジョン・レノンジョージ・ハリスンもピンピンしていたのです。

さて、例によってウダウダ書いてきたところで、最後にこれから聴いてみても良いかも?と思った人がいた時のために、みんのおすすめをあえて5曲に絞り込んで挙げてみたいと思います(順不同)。

Bad, Bad Leroy Brown(リロイブラウンは悪い奴)
軽快なサウンド、ユーモラスな歌詞、なんと言っても全米ナンバーワンヒットです。初めてシカゴを訪れた時、ダウンタウンをうろつきながら、ここが舞台かとこの曲を口ずさんだものです。
I Got A Name
ジム・クロウチに心奪われたのは、たぶんこの曲のしわざその1。前述したように、きっかけは先輩のコピーだったんですが。実際にホンモノに接したときは、もう鳥肌ものでした。自作曲ではないのですが、明らかに代表曲です。
Operator(That's Not The Way It Feels)
ジム・クロウチに心奪われたのは、たぶんこの曲のしわざその2。別れた女性に電話しようとして交換手にあれこれ話すうち結局やめてしまうという、ゆらいだ心がせつなくも美しいメロディーに乗せ歌われる佳曲。モーリー・ミュライゼンのギターもすばらしい。
I'll Have To Say I Love You In A Song(歌にたくして)
実はメロディーに聴き覚えがある人もあるかもしれません。それぐらいカバーされまくった美しいメロディーです。きみへの想いは直接うまく言えないから歌でI Love Youをいうよ、というシャイなやつです。これもモーリーのギターがすばらしすぎ。
Alabama Rain
アメリカ南部の夏の夜、マグノリアの香りがむせかえる濃密な空気感が良く伝わってきますが、トドメはミドルの「僕たちはほんの子供だったけど(中略)今でも君に最初にI Love Youを言った時の事を覚えている」です。10代だった昔からこの部分で胸がしめつけられます。

*1:以前から離陸に失敗して木に激突したというような話を耳にしておりましたが、今日発見した米国のファンサイトで、飛行士が心臓発作を起こしたという報告があった、という話が紹介されていました。マジですか?!

*2:昔集めたLifesongからリリースされたジムのオリジナルLPでは、インナースリーブがギター弦の広告になっていて、そこではジム・クロウチやモーリー・ミュライゼンも使っていたといううたい文句がありました

*3:学校敷地が狭くて体育館にも全校生徒が入れなかったため

*4:後日ソニーから日本盤が復活した時はソニーに敬意を表して、全部日本盤で買い直して、それまで持っていた輸入盤は普及のため友人たちに配布しました。同じように貴重盤を失ったケースは多い(笑)。

*5:実はTVのBGMなどでインスト化されたものがよく流れています。そんなわけで、知らず知らずのうちにジムの曲を知ってる人も多いかもしれません。